大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)4650号 判決
一 原告の意匠権
成立に争いない甲第一ないし第三号証および弁論の全趣旨によると請求原因(一)、(二)項の事実を認めることができる。
二 本件意匠権の侵害
(一) 請求原因(三)項については当事者間に争いがない(なお、被告は被告製品の販売のみならず、製造の事実も目認しているが、被告代表者本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したと認める乙第三号証によると、被告は被告製品の仕立を他に注文し、自らはこれを製造していないことが認められる。しかし、いずれにしても意匠権侵害との関係では製造販売も販売も等価であるから、以下販売についてのみ検討する。意匠法二三条、二条三項。)。
(二) そこで、被告が被告製品を業として販売したことが本件意匠権を侵害するものであるか否かについて検討する。
まず被告意匠が本件意匠と同じように織物地に係るものであることは前記のとおり当事者間に争いがない(もつとも、右自白にもかかわらず、被告製品であることに争いのない検甲第三号証によると被告製品は「編物地」からなつており「織物地」からはなつていないことが一見して明らかであり、被告の自白は、真実に反するにもかかわらず錯誤によるものとして撤回の主張がない関係にある。したがつて、いまもし裁判所が右自白に拘束されないとすれば被告意匠は本件意匠とは別異の物品にかかるものといわなければならない―意匠法七条、同法施行規則五条の別表一類の物品の区別参照―。しかし、「織物地」と「編物地」とはふうあい、感触等の機能面で若干異なる点はあるがその用途はほとんど同じであり、生地として実質的に類似すると解すべきである。そうすると、右自白と真実の喰い違いはいずれにしても本件類否に影響を及ぼすものではない。)。
次に両意匠の類否について検討するに、いま両者の外観を細心の注意を払つて観察すると、両者には若干の相違点を看取することができるのであるが(前者のデザイン中の「D」の図形が後者においては「P」となつており、また、前者にある「r」の図柄が後者にはない点)、これを普通の注意力をもつてみた場合には、両者は材質の相違からくる模様等の相違はほとんどなく、生地の表面に現わした図柄や大きさもほとんど同じであつて、その相違は他人に指摘されてはじめて気がつくていどのものと解される。したがつて、両意匠は極めて類似しているというべきである。
なお、以上の見解と異なる被告の主張は意匠の類否判断に必要な健全な社会通念からしてとうてい首肯できないものというほかない。
(三) そうすると、被告は被告製品を業として販売することによつて原告の本件意匠権を侵害したものである。
三 被告の過失
被告は前記本件意匠権侵害行為について過失があつたと推定される(意匠法四〇条)。
四 損害
そこで、すすんで原告の蒙つた損害額について検討するため、まず被告が前記侵害行為によつて得た利益額について検討するに、本件においては全証拠を精査しても被告の得た利益額は被告が自ら認める額(三四万二三〇〇円)以上を認めるに足る証拠はない。すなわち、被告代表者本人尋問の結果および右尋問の結果によつて真正に成立したと認められる乙第一、第二号証によつても、被告が得た利益は被告が主張するとおりの経過により被告自認の金額どおりであることが認められるにとどまり、他に右以上の利益があつたと認めるに足る証拠はない。
右の点に関する証人鈴木義彦の証言は当業界の一般的な利益計算等に関するものであつて、被告の利益を確定するさいの資料とするにはやや具体性、客観性に乏しいと思われるのでこれを採用することができない。
そうすると、原告の蒙つた損害は金三四万二三〇〇円と推定するにとどめるほかない(意匠法三九条一項)。
五 謝罪広告請求の当否
次に、原告の謝罪広告請求の当否について検討するに、証人鈴木義彦の証言に前記認定事実および弁論の全趣旨を総合すると、原告は世界的な高級フアツシヨン製品メーカーとしてつとに著名な業者であり、日本国内でも著名であり、かつ右著名性は本件意匠を現わした商品の優秀性が与つて力があつたこと、したがつて、被告が前記のとおり本件意匠と酷似する被告意匠に係る被告製品を販売したことは一般消費者間に原告製品との誤認混同を生じさせ、これがため原告の有する信用と名声を損う結果を生じたものと認めることができる(被告製品の販売に際し、「国産品」なる表示「ヒルビー」なる標章を付していたとしてもそのことによつて前記認定事実が左右されるものとは考えられない。)。
しかしながら、被告の前記違法行為は昭和五三年春の一シーズン(約二カ月の短期間)かぎりであり、またその販売量も六〇〇着程度に過ぎず、その後は販売を中止しており、今となつては結果として右侵害発生以来既に約二年近くの日時が経過していることも認められるのであつて、これらの事実を彼此勘案すると、本件において被告に対し損害金の賠償をさせたうえ、さらに謝罪広告までさせるのは必らずしも妥当とは考えられない。原告の謝罪広告請求は失当である。
六 結論
よつて、原告の被告に対する本訴請求は損害金三四万二三〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年八月二九日から右金員支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却する。